ストックホルムの街は、良い意味で未完成だと私は思います。スウェーデンはフィンランドと並べて「北欧」と表現されますが、正式名称はスウェーデン王国。
王国文化の残る国で、質素で素朴だけれどもどこか洗練された雰囲気のある風景にエッジの効いた現代のデザインがうまく溶け込んでいるように感じられます。王国の優雅さと、北の国ならではの素朴な美しさが共存し、そこに現代の先進的な感性が融合した、なんとも面白い街です。
グンナール・アスプルンド、その本名はエーリック・グンナール・アスプルンド(Erik Gunnnar Asplund 1885-1940)。ストックホルム生まれのアスプルンドは、王立工科大学で建築を学んだのち、友人と共に応募した1915年の「ストックホルム南墓地国際コンペ」で1位を獲得、その後生涯をかけてその作品に取り組むことになります。それが、前述した彼の代表作、「森の墓地」です。
彼の作品はアルネ・ヤコブセンやアルヴァ・アアルトら、20世紀を代表する北欧デザイナーたちに強力な影響を及ぼしたと言い、北欧近代建築の先駆けとなる存在でした。しかし、日本でヤコブセンやアアルトほど広く知られていないのは、55歳という建築家としては最盛期とも言える時期にこの世を去り、作品がほとんどスウェーデン内に限られているからでもあるのでしょう。改めて、建築家が大成するまでの道のりの壮大さを感じます。作品数としては少ないアスプルンドですが、その設計力、人の心理、しいては物事全体の本質を捉えて単なる時流に止まらせないエフォートレスなデザインに落とし込む力は類い稀なるものだったのではないでしょうか。
スウェーデンの各地にひっそりと、しかし確固たる精神を受け継ぎながら佇むアスプルンドの建築には、何か哲学的な信念が詰まっているように感じられます。