-ヴァイセンホーフの住宅団地-
ドイツといえばもう一つご紹介したい建築がヴァイセンホーフの住宅団地。
ドイツ南部のシュトゥットガルトにあるヴァイセンホーフ・ジードルングという住宅団地です。「ジードルング」とは、ドイツ語で「集落」を意味し、ヴァイマル共和国時代にドイツで建設された集合住宅を指す言葉としても広く知られています。こちらはドイツ工作連盟主催の住宅展覧会のために建設された実験住宅群。当時のモダニズム建築の実践の場所となったそうです。プロトタイプのようなものでしょうか。人が住む規模のものを実験的に作るなんて、なかなかおもしろいプロジェクトですよね。
その中の一つがヴァイセンホーフ・ジードルング。その地域にはあちこちにその実験住宅が建ち並んでおり、実際に今も人が住んでいる住宅も多くあります。
その中で、博物館として公開されているのが、かの有名な建築家、ル・コルビュジエが設計した住宅。こちらは2世帯住宅として設計された住宅で、フレキシブルに区切られる住空間と、人間工学に基づいたキッチンは、現代の私たちの生活にも通ずる「暮らしのデザイン」が随所に反映されています。
屋上にはバルコニーがあり、丘からの街の景色が一望できます。決して大きな住宅ではないけれど、その限られたスペースでいかに人間が快適に暮らせるかが実験的に追求されているのです。今でこそ狭小住宅のデザインも世には普及していますが、遡ること1927年、ドイツを中心として17人の建築家が未来の住宅を真剣に考え、限られた資源で、限られたスペースで、暮らしを追求したことによって生まれたウィットに富んだ空間がそこには存在するのです。
-ピーター・ズントーという建築家の言葉からドイツを考える-
ドイツの建築、デザインについてご紹介させていただきましたが、ここで改めて少し触れたいエピソードが。先述したドイツのケルンにあるコロンバ美術館の設計者、ピーター・ズントーという建築家。ほとんどの作品はスイス内に多いですが、ドイツに存在するいくつかの作品の一つがコロンバ美術館です。コロンバ美術館を訪れた際に購入したパンフレットに彼のインタビューが載っていて、そこにこんなことが書かれていました。(英語だったのでうまく訳せていないかもしれませんが・・・)「ドイツは、戦争によってたくさんの建築やデザインが生まれる瞬間を失ってしまった」と。現に、ドイツの建築やデザインを学ぶにつけて、例えばモダニズム建築の作品は多くがアメリカに存在しているし、ナチスによって大衆に公開することを禁止された絵画などの芸術もとても多い。先述したバウハウスで行われた芸術などもその対象で、ヒトラーにとってはあの印象派絵画でさえ、「ドイツの価値観」にそぐわない退廃的芸術であるとされたそうです。今では近代的で人気のある建築のスタイルや、絵画などアート作品も、時代背景とひとたびズレれば広まることはない。とてもシビアな世界だなあと思います。まあ、世の中のどんな事柄でも一理言えることかもしれませんが。ドイツの建築やデザインについて知れば知るほど、時代背景との密接な関係が見えてくるような気がします。
話があっちへ行ったりこっちへ来たりしていますが、ピーター・ズントーはドイツのそんな時代背景や地域性を汲み取り、コロンバ美術館を設計したようです。一つの建築から読み取れることがこんなにも深く、いろんな世界に紐づいているとは。そこまでの背景を考えて設計をする建築家というのも興味深いです。ちなみに、ピーター・ズントーは数いる建築家の中でも「建築の骨、肉、皮膚、全てを自分で作り出す職人的な建築家」と自ら称するほどに、素材へのこだわりと知見が深いそうです。コロンバ美術館を訪れた際も感じたのですが、その無機質なフォルムの中にじんわりと広がる温かみと威厳のある空気は、細部にわたってこだわられた素材にヒントがあったのかもしれません。次にスイスを訪れることがあれば、彼を一躍有名にした「テルメ・ヴァルス」には是非とも訪れたいなあと思います。
参照:https://hash-casa.com/2017/08/28/thermevals/